三井化学グループは、2025長期経営計画における環境・社会軸目標のひとつとして「サプライチェーン全体を通じた安全確保・高品質・公正の追求」を掲げています。
近年、パリ協定や国連の持続可能な開発目標(SDGs)のほか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会による持続可能な大会を意図した調達など、サプライチェーンに配慮した取り組みが求められています。
そこで、グローバルに経営の拡大を目指す当社グループが取り組むべきサプライチェーン対応について、2017年7月25日に社外有識者とのダイアログを開催しました。本ダイアログでは、冨田秀実氏にご講演をいただいたのち、冨田氏と当社経営陣の意見交換を行いました。

冨田 秀実 氏 (とみた ひでみ)

東京大学工学部物理工学科卒、プリンストン大学工学部化学工学修士修了。
ソニー株式会社のCSR部の立ち上げから約10年にわたり統括部長を務める。現在、ロイドレジスタージャパン株式会社 取締役 事業開発部門長。
ISO26000策定ワーキンググループのサブグループ議長、GRIの技術諮問委員、ISO 20400「持続可能な調達」策定の日本代表エキスパートとして、CSR関連の国際的フレームワークの構築に参画。
東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会の持続可能な調達ワーキンググループメンバー、内閣府の民間企業における調達を活用したWLB等推進の加速に関する調査研究企画委員会委員も務める。

出席者一覧

社外有識者

冨田 秀実氏
ロイドレジスタージャパン株式会社 取締役 事業開発部門長

ファシリテーター(進行)

山吹 善彦氏
株式会社YUIDEA

三井化学出席者

淡輪 敏
代表取締役 社長執行役員
久保 雅晴
代表取締役 副社長執行役員 CFO、CSR委員会 および リスク・コンプライアンス委員会担当
諌山 滋
代表取締役 専務執行役員 CTO
松尾 英喜
取締役 専務執行役員 生産・技術本部長
下郡 孝義
取締役 常務執行役員 フード&パッケージング事業本部長 兼 モビリティ事業本部長
大村 康二
副社長執行役員 基盤素材事業本部長
小川 伸二
常務執行役員 レスポンシブル・ケア委員会担当
福田 伸
常務執行役員 研究開発本部長
橋本 修
常務執行役員 ヘルスケア事業本部長 兼 新ヘルスケア事業開発室長
安藤 嘉規
執行役員 人事部長
平原 彰男
執行役員 経営企画部長
松永 秋彦
理事 総務・法務部長
小久江 晴子
理事 コーポレートコミュニケーション部長
出口 敦
生産・技術本部 安全・環境技術部長
坪原 健太
生産・技術本部 生産・技術企画部長
金村 芳信
RC・品質保証部長
酒井 郁典
購買部長
鈴木 重夫
関係会社統括部員 (香本 敏博部長代理)
鮎川 彰雄
常勤監査役
那和 保志
常勤監査役
(20名)

講演概要

近年、企業が自社のみならず、委託先などサプライチェーン全体の人権や労働安全、環境への配慮に関する問題を指摘されるケースが多くなっている。自社のCSRを適正に行うのは当然として、サプライチェーンも含めて社会的責任を果たすことが昨今の世界的な考え方になっているからである。国連のビジネスと人権に関わる指導原則、ISO26000やISO20400、ESG投資なども企業のサプライチェーン管理を促しており、英国の現代奴隷法を始め、米国のドッド・フランク法の紛争鉱物ルール、欧州議会での紛争鉱物資源に関する規則案の採択など、各国で法令強化も進んでいる。また、日本では東京オリンピック・パラリンピックの調達に関してCSR上の配慮要求が始まっている。
このため、人権侵害、労働問題、環境破壊、不公正な取引などサプライチェーンによって引き起こされる負の影響は、取引停止やブランドイメージの毀損、訴訟、企業格付けマイナス評価といったビジネスリスクに波及するのが現状と言える。また法令を遵守していく上で、取引のある国の法律にも感度を高めておく必要がある。三井化学の場合も、顧客企業や機関投資家からのサプライチェーン管理の要求が高まっているはずである。そういった要求に応えるためには、サプライチェーンを分析し、その特性や環境、人権などの問題を明確にした上でリスク評価を行うといったデューデリジェンスが必要である。そしてその内容について適切に情報開示を行い、ステークホルダーの理解を得るということも重要である。
企業はこうしたサプライチェーン全体の管理の仕組みを確実に運用していくことが求められている。

意見交換

Q.
ESG投資やCSR調達は欧州が先行しています。機関投資家が企業のサプライチェーン対応を重視する中で、欧州の企業はどのような対応を行っているのでしょうか。
A.
機関投資家のESG評価では、情報開示が非常に重要で、開示していなければ評価されません。欧州企業はEUの非財務情報開示指令で義務的な開示が課され始めていますが、日本企業は法定開示が義務付けられておらず、差がつきやすくなっているのが現状です。
特にサプライチェーンに関する情報開示では、サプライチェーンの構造、高リスクのサプライヤーの把握、リスクのモニタリング方法、抽出された問題点とその是正方法といった一連の内容が求められつつあります。最近ではサプライヤーのリストを開示するなど透明性の高い情報開示が世界のトレンドになり始めています。
Q.
サプライチェーンの情報開示にあたって、機密保持の担保の必要性についてどのように考えていけば良いでしょうか。
A.
欧米型のモデルでは、顧客や第三者がサプライヤーの監査を行いますので、機密情報の保持はかなり難しい課題です。そこは、契約を結ぶなど個別交渉で担保していく必要があります。ただ、サプライヤーを頻繁に変える欧米企業と異なり、日本企業はサプライヤーと密接な関係性を築くことが特徴です。それは日本企業の良さでもあります。日本企業は欧米型の監査の仕組みを使うよりも、独自のエンゲージメントの仕方を工夫していくのも、ひとつの方法なのではないかと思います。

Q.
企業がサプライチェーン対応に取り組む際、国によってESGリスクや対応力、その方針にばらつきがある中で、どのようにグローバルな基準を統一すれば良いのでしょうか。
A.
今注目されるのは、国ごとではなく企業ごとの対応です。国という境界がぼやけてきており、グローバル企業は国の法律に限らずサプライチェーン管理をすることが必要になっています。
環境や人権NGOも、国を攻めるよりも企業を攻める方が世の中を変えることができるという認識です。ブランドの価値を守りたい企業は、一度指摘を受けたら、それがどの地域のオペレーションであったとしても世界中のサプライチェーン管理に取り組み始めますので、波及効果が圧倒的に大きいのです。これはNGOに限らず投資の分野も同様で、グローバルなリスクを評価するという意味で国境という概念が薄まっています。こうした発想の転換をしていただくと、より的確な対応ができるのではないかと思います。
Q.
行動規範や調達基準が数多くありますが、何に沿って、また、どの程度の水準まで行うべきでしょうか。
A.
行動規範や調達基準を網羅するのではなく、まずはリスク評価をし、緊急度の高い課題から対応することが重要です。労働慣行についてはILO国際労働機関などで示された水準がベンチマークになります。また、例えば電子機器業界で使われているEICCの監査基準は非常に明確です。指摘のレベルとして緊急に是正が求められるメジャーレベルから、対応に少し時間をかけても良いマイナーレベルまで区分けがなされています。そういったものを参考にしながらやっていくと良いと思います。
Q.
ISO20400についてはどのように取り組むべきでしょうか。
A.
ISO20400は「持続可能な調達」に関するガイドラインであり、多様なサプライチェーン対応の課題をチェックするという観点での利用が有意義だと思います。三井化学の場合、素材関連の既存事業と比較すると、新規事業の中にはサプライチェーンが大きく異なっている事業分野もあると思います。新たに事業を展開する場合に、環境や人権などのリスクを洗い出すための手法として利用するというのが良い使い方ではないでしょうか。

Q.
サプライチェーン管理のための調達プラットフォームも数多くありますが、どのように対処していけば良いでしょうか。
A.
顧客企業からのCSR調達アンケートや調達プラットフォームへの回答要求には対応せざるを得ません。顧客からの依頼を受ける営業担当者のESG評価に関する理解が浅い場合、適切に回答できなかったり放置してしまうケースも少なくありません。これは取引停止や是正の要求が厳しくなるというリスクを伴います。中央で取りまとめて整合性をとったり、社内の理解を高めるような仕組みの構築も大切になります。
一方で、自社のサプライチェーン管理については業界ごとにいろいろな特性があると思います。プラットフォームの活用検討も含め、独自の工夫をしていただければ良いと思います。
Q.
環境・社会への貢献の見える化をサプライチェーン全体で取り組む際に、気をつけるべき点はありますか。
A.
Blue Value®、Rose Value™ 製品による貢献の見える化は、非常に興味深い取り組みだと思います。認定プロセスのLCA評価にはサプライチェーンが関わっています。例えば、「サプライチェーンをこう変えることで、より環境に貢献できる」といった提案までできれば、さらに良い取り組みになるのではないでしょうか。
ただ、環境や社会への貢献を謳っているにも関わらず、万が一サプライチェーンで甚大な問題があった場合、貢献製品自体のレピュテーションを毀損してしまうリスクがあります。三井化学グループの事業ではそういったリスクは比較的低いとは思いますが、リスクに対する準備、デューデリジェンスをしていくのが良いと思います。

ダイアログを終えて

企業の責任範囲は自社だけではなくサプライチェーン全体に広がっています。例えば、ご講演で挙がった英国現代奴隷法など、他国の法律についても認識不足で対応が遅延すれば企業価値の毀損につながりかねません。我々はサプライチェーンで発生する問題は企業のリスクであるということを改めて認識し、対応する必要があります。
ただ、こういったサプライチェーン対応は一部署だけでやりきれるものではありません。コーポレートコミュニケーション部を中心に各部署が高い意識を持って、組織横断的に取り組むべき課題であると考えます。
当社グループは、2025長期経営計画で定めた「サプライチェーン全体を通じた安全確保・高品質・公正の追求」に向かって実のある取り組みを進めていきたいと思います。

代表取締役社長 淡輪 敏

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