三井化学 第5回 触媒科学国際シンポジウム(MICS2011)」開催について

別紙-2

【講演内容の要旨】

〔基調講演〕

<基調講演1> 〔3/9(水)10:10~11:00〕

Dynamics of Chemical Reactions and Photochemical Processes
(化学反応および光化学過程のダイナミクス)
Yuan T. Lee 教授(台湾中央研究院、台)

Lee教授は、1986年に台湾人として初のノーベル賞に輝いた、実験物理化学の研究者である。Lee教授は、独自に開発した交差分子線装置を用いて、科学者の長年の夢であった、化学反応過程における原子・分子の動的挙動の観察に世界で初めて成功した。
本講演では、交差分子線手法に加え、オゾンホールの光化学における最近の研究事例等を紹介し、化学反応及び光化学過程のダイナミクスに関する詳細が述べられた。

<基調講演2> 〔3/10(木)10:00~10:50〕

The Structure and Mechanism of ATP Synthase
(ATP合成酵素の構造および反応機構)
Sir John E. Walker 教授(医学研究協議会、英)

Walker教授は分子生物学の第一人者であり、中でも細胞内小器官の一つであるミトコンドリアの研究において多大な貢献をしたことで知られる。Walker教授はミトコンドリアDNAの遺伝子コードの解明に貢献した後、ミトコンドリア及びバクテリア内のアデノシン三リン酸(ATP)合成酵素の研究を開始した。その後、触媒活性部位をはじめとする構成タンパク質の同定及びそれらの立体構造の解明に尽力し、ATP合成機構を明らかにした。この研究により1997年、Boyer博士と共にノーベル化学賞を受賞し、1999年にはナイトの爵位を授与された。
本講演では、ATP合成酵素の構造及びATP合成の根底にある酵素反応のメカニズムについて、最新の知見が紹介された。

〔特別講演〕

<特別講演1> 〔3/9(水)13:20~14:10〕

Cross-coupling Reactions of Organoboron Compounds:Carbon-Carbon Bonding Made Easy
(有機ホウ素化合物を用いるクロスカップリング反応:炭素-炭素結合の簡単な生成手法)
鈴木 章 名誉教授 (北海道大学)

鈴木名誉教授は有機ホウ素化学の第一人者であり、有機ホウ素化合物を用いる新規高選択的有機合成反応に関する研究で、多くの業績を挙げてきた。とりわけ、安定で取り扱い易く、毒性の極めて低い有機ホウ素化合物を用いた鈴木カップリング反応は著名であり、医薬や農薬、液晶材料や有機EL材料など、生活に身近な製品の開発や工業生産に大きな貢献を果たしている。この業績により、2010年に根岸英一教授、Heck名誉教授と共にノーベル化学賞を受賞した。
本講演では、鈴木カップリング反応の概要と、近年の工業分野への応用について紹介された。

<特別講演2> 〔3/10(木)13:10~14:00〕

Magical Power of Transition Metals: Past, Present, and Future
(遷移金属化合物の不思議な力:過去、現在、そして未来)
根岸 英一 教授 (パデュー大学、米)

根岸教授は、種々の有機金属化合物を用いる反応開発研究において、重要かつ多大な成果を挙げてきた。根岸教授が開発したパラジウム触媒による有機金属化合物と有機ハロゲン化物の反応は根岸カップリングとして知られ、この業績により、2010年、鈴木章名誉教授、Heck名誉教授らと共にノーベル化学賞を受賞した。また、ジルコニウム触媒を用いるカルボアルミニウム化反応、及びその不斉合成(ZACA反応*)の開発など多数の業績を挙げている。
本講演では、触媒化学反応における遷移金属の特徴について述べられるとともに、キラルジルコニウム触媒によるZACA反応の進展、及びZACA反応によるキラル化合物合成への応用などについて述べられた。

* : Zr-Catalyzed Asymmetric Carboalumination of Alkenes

〔招待講演〕

<招待講演1> 〔3/9(水)11:00~11:50〕

Hydrocarbon Upgrading to Fuels and Chemicals: Progress towards Homogeneous Catalysts
(単純な炭化水素を有用な化学品や燃料へ: 均一系錯体触媒の進展)
John E. Bercaw 教授(カリフォルニア工科大学、米)

Bercaw 教授は、無機化学及び有機金属化学を専門として、有機遷移金属化合物の合成、構造、反応機構などの研究に取り組み、多くの成果を挙げてきた。最近では、オレフィン重合触媒や遷移金属錯体を用いる炭化水素の水酸基化反応の開発のみならず、合成ガス(CO + H2)の変換による有用化学品製造の研究に精力を傾けている。
本講演では、Shilov システム*の反応機構に関する研究について述べられた。さらに、低級アルカンを「直接的」若しくは合成ガスを経由して「間接的」に化学品、更には高付加価値製品や液体燃料へ変換する最近の進歩について概観された。

* : 白金錯体によるアルカンのアルコールへの触媒的酸化反応

<招待講演2> 〔3/9(水)14:10~15:00〕

Water Splitting on Heterogeneous Photocatalysts
(不均一系光触媒による水分解反応)
堂免 一成 教授 (東京大学)

堂免教授は不均一系光触媒を用いた水の分解による水素製造研究の第一人者であり、太陽光で水を分解し、太陽エネルギーを効率良く水素エネルギーに変換するための光触媒の開発を推進している。この研究分野では、チタン、タンタル、ニオブなどの酸化物が幅広く研究されてきたが、堂免教授はガリウムやゲルマニウムなどの(酸)窒化物を光触媒材料開発の主なターゲットとし、太陽光の大部分を占める可視光を利用した水の水素と酸素への完全分解に成功した。
本講演では、GaN-ZnO及びZnGeN2-ZnO固溶体系光触媒や、緑色植物の光合成を模倣したZスキーム系光触媒による、可視光を利用した水分解反応の技術及び将来課題について述べられた。

<招待講演3> 〔3/9(水)15:00~15:50〕

Challenges in Arene Assembling Chemistry
(芳香環連結化学のブレークスルー)
伊丹 健一郎 教授 (名古屋大学)

伊丹教授は気鋭の有機合成化学者として、理想的かつ革新的な化学変換法及び、合成方法論の開発に取り組み、有用化合物の創出を指向した、分野横断型の合成化学研究を推進している。これまでに、パラジウム触媒の配位子に関した新概念を提唱し、高選択・高効率反応を開発しているほか、近年では、芳香環を簡便に連結する手法が新しい方法論として大きなインパクトを与え、医薬品及び炭素材料開発などへの展開が期待されている。
本講演では、それら芳香環連結化学を紹介し、(1)芳香族化合物のC–H結合直接化学変換、(2)迅速な生理活性物質や天然物などの合成、(3)新しいナノカーボンの創製などについて述べられた。

<招待講演4> 〔3/10(木)10:50~11:40〕

Iron Catalysis in Organic Synthesis
(有機合成における鉄触媒)
中村 栄一 教授 (東京大学)

中村教授は、有機金属化合物による反応開発研究、量子力学計算を利用した反応機構の解明、ナノカーボンの化学などにおいて卓越した業績を挙げてきた。また、太陽電池や有機EL素子といった高機能材料開発や、カーボンナノチューブ中に閉じ込めた有機分子を電子顕微鏡により観測することに世界で初めて成功するなど、その業績は幅広い分野にインパクトを与えている。近年、環境への負荷が少なく、資源枯渇の恐れのない鉄を触媒とした有機合成反応の開発に精力的に取り組んでいる。
本講演では、鉄触媒を用いる種々の炭素-炭素結合生成反応、1)(不斉)カルボメタル化反応、2)アルキルハライドのクロスカップリング、3)炭素-水素結合の活性化などについて述べられた。

<招待講演5> 〔3/10(木)14:00~14:50〕

Applications of Orthogonal, "Click" Chemistries in the Synthesis of Functional Soft Materials
(高効率・高選択的合成技術「クリックケミストリー」を駆使した機能性材料の創出)
Craig J. Hawker 教授(カリフォルニア大学 サンタバーバラ校、米)

Hawker教授は制御ラジカル重合技術と『クリックケミストリー』と呼ばれる高効率で高選択的な化学反応とを組合せて、構造が制御された新規機能性高分子材料を創出する研究の第一人者である。
本講演では、『クリックケミストリー』を駆使して反応性官能基を付与したブロックポリマーの合成例や、付与した官能基を活用した薄膜フィルムやヒドロゲルなどの創出例について紹介された。

<招待講演6> 〔3/10(木)15:10~16:00〕

Phenoxy–Imine Ligand as a Basis of the Highly Active and Selective Industrial Catalysts: Principles and Practice
(フェノキシ-イミン型配位子を基礎とする高活性・高選択性触媒:その原理と実践)
槇尾 晴之 博士 (三井化学(株) 触媒科学研究所)

槇尾博士は、三井化学に入社以降、遷移金属錯体触媒を用いるオレフィン重合の研究に従事し、同社における重合触媒開発のキーパーソンとして活躍している。特に最近は、均一系触媒、あるいは不均一系触媒を駆使して、高い付加価値を有する高分子材料を創出するための研究に邁進している。
本講演では、三井化学で開発された高性能オレフィン重合用触媒であるFI 触媒について、その活性種及び反応機構、及び構造-反応性相関について解説された。さらに、FI 触媒の特徴を活かした新規なオレフィン系ポリマー材料の創出及びFI 触媒技術を応用したエチレン三量化触媒の設計と開発について紹介された。

<招待講演7> 〔3/10(木)16:00~16:50〕

Precision Radical Polymerization with Transition-Metal Catalysis: A Bridge between Polymer Chemistry and Catalysis Science
(遷移金属錯体触媒による精密制御ラジカル重合: 高分子化学と触媒科学の融合)
澤本 光男 教授 (京都大学)

澤本教授は遷移金属錯体による精密(リビング)ラジカル重合技術の発明者である。本技術は、その簡便性から産学問わず構造を精密制御した高分子材料の開発に利用されている。
本講演では、最近の遷移金属触媒の進歩や反応機構の解明などの基礎研究から、官能基化及び/またはモノマー配列が精密制御された高分子材料の開発まで総合的に紹介された。

〔受賞記念講演〕

<『三井化学 触媒科学賞』 受賞記念講演1>

Photoredox Catalysis and Accelerated Serendipity
(有機触媒による光酸化還元反応、そしてセレンディピティの促進)
David W. C. MacMillan 教授(プリンストン大学、米)

MacMillan教授は、有機触媒の分野における第一人者として知られている。既存のプロリン触媒を用いた反応を深耕するとともに、独自に開発したキラルイミダゾリジノン骨格を有する有機触媒(MacMillan触媒)を用い、これまでの有機触媒では不可能であった数々の不斉合成反応を開発している。また、この触媒を一電子酸化剤と組み合わせた新手法(SOMO-Activation)を開発し、有機触媒の可能性を広げた。さらに近年、この触媒とルテニウム錯体を組み合わせ、有機触媒による光酸化還元反応を見出している。
本講演では、SOMO触媒と有機光酸化還元触媒の開発について述べられた。さらにMacMillan教授が提唱している「セレンディピティの促進」という新規化学反応発見のためのアプローチについても紹介された。

<『三井化学 触媒科学奨励賞』 受賞記念講演2>

Development of Highly Active Heterogeneous Catalysts Based on the Properties of Metal Hydroxides
(金属水酸化物の特性に基づく高活性不均一触媒の開発)
山口 和也 准教授 (東京大学)

山口博士は、金属水酸化物が金属由来のLewis酸性と水酸基由来のBrønsted塩基性を併せ持つという協奏触媒作用に着目し、それらの特長を巧みに利用した高活性不均一触媒の開発を行った。具体的には、無機酸化物上に単核、もしくはそれに近い高分散のルテニウム水酸化物を担持した触媒を用い、分子状酸素によるアルコールの選択酸化反応の開発に成功した。また、この触媒がアルコールの酸化反応に加えて、水素移動反応や水和反応にも高活性であることを見出した。
本講演では、金属水酸化物の性質に基づいた高活性不均一触媒の設計、及びその特徴を利用した、種々のグリーンな官能基変換反応について紹介された。

<『三井化学 触媒科学奨励賞』 受賞記念講演3>

Unsaturated Alcohols as Surrogates of Organometallic Reagents in Palladium–Catalyzed C–C Bond Formation
(パラジウム触媒反応における不飽和アルコールの有機金属等価体としての利用)
依光 英樹 准教授 (京都大学)

依光博士は、パラジウム触媒による芳香族ハロゲン化物のアリル化反応において、ホモアリルアルコールがレトロアリル化反応を経由することでアリル金属等価体として作用することを見出した。本手法は、中性分子を巧みに利用したもので、従来型のクロスカップリング反応では困難であった位置及び立体選択的なアリル化を実現した。さらに依光博士は、ヘテロサイクル化合物を合成する新手法として、パラジウム触媒によるアリルアルコールと芳香族ハロゲン化物の環化反応により、対応するエポキシ化合物の合成反応を開発した。
本講演では、これら二つの反応について、高度な位置、及び立体選択性を発現するための反応機構を交えて紹介された。

以 上


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