小川名誉教授 × 淡輪社長 安全対談
5年の時を経て安全確保に向けた新たなステージへ

三井化学グループは、「安全はすべてに優先する」という経営方針の下、抜本的安全の定着や安全文化の醸成などに取り組んできました。2025長期経営計画においても、安全確保に根差した競争力強化は経営の基盤となるものです。
当社岩国大竹工場レゾルシン製造施設において発生した爆発火災事故から5年が経過しました。岩国大竹工場で取り組んできた安全再構築プロジェクトは2016年度で完了し、私たちの活動は新たなステージに入ろうとしています。

本特集では、2012年から三井化学 岩国大竹工場 レゾルシン製造施設事故調査委員会委員長を務めていただいた小川輝繁氏(横浜国立大学名誉教授、総合安全工学研究所専務理事)と当社社長淡輪敏が、現場を中心としたこれまでの取り組みと、今後の安全活動について対談を行いました。

* 2017年7月に発生した茂原分工場の火災については、こちらをご覧ください。

小川教授プロフィール

小川 輝繁 氏
横浜国立大学名誉教授、総合安全工学研究所専務理事

1968年
京都大学大学院工学研究科修士課程修了
1978年
京都大学 工学博士
1989年
横浜国立大学 工学部教授
2001年
横浜国立大学大学院 工学研究院教授
2006年
横浜国立大学大学院 環境情報研究院教授
2008年
横浜国立大学 名誉教授
2012年
三井化学 岩国大竹工場 レゾルシン製造施設事故調査委員会委員長
* 専門:
爆発安全工学、エネルギー物質の科学、化学プロセスの安全工学
* 委員歴:
火薬学会会長、安全工学会会長、安全工学会 保安力向上センター運営委員会委員長、
経済産業省資源エネルギー調査会委員、産業構造審議会保安分科会委員 等
* 受賞:
2013年 安全功労者内閣総理大臣賞 受賞

決して事故の記憶を風化させてはならない

―― 5年前の4月22日、岩国大竹工場のレゾルシン製造施設で爆発火災事故が発生しました。当時を振り返り、事故調査員会の委員長をされた小川先生の、率直な思いをお聞かせください。

小川
三井化学の未来ある若い社員が亡くなり、非常に残念に思いました。また、爆発火災事故がもたらす惨状を目の当たりにし、化学工場における安全の重要性を改めて痛感しました。三井化学は、会社全体で高い安全レベルを保たれてきたと認識しています。そうした中であのような事故が発生し、真の安全を確保するということがいかに難しいかを思い知らされました。
淡輪
事故発生後の5月初旬に現地へ足を運びましたが、あの時の衝撃は今でもはっきりと覚えています。私自身、以前、工業薬品事業部長として何度も現場を訪れていただけに、その変わり果てた光景を見て言葉を失いました。そして、我々の大切な仲間を亡くしてしまい、近隣住民の方、関係官庁の方、お客様をはじめ多くの方々に大変なご迷惑をおかけしてしまったことは、まさに痛恨の極みであります。あれから5年の歳月が経ちますが、事故の記憶は決して風化させてはならないと思いを強くしています。

安全への感性を高め 自ら考え行動する力を磨く

―― 先生は、事故調査委員会報告書において「安全に対する弱点があってもそれを補完する機能が有効に作用していれば事故は発生しない」とのお考えを述べられました。

淡輪
「安全に対する弱点を補完する機能を有効に作用させる」ために、生産拠点では日頃からどのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。
小川
やはり安全を確保するということは生易しいものでありませんし、そのための特効薬も存在しません。現在、各生産拠点においては適切な安全対策が講じられていますが、現場の状況は日々刻々と変化を続けています。これはつまり、常に新たなリスクが生じる可能性があるということです。事故につながる要素を優先的に取り除いていくためには、現場にいるすべての人が緊張感を持ち、決して過信することなく日々の安全活動を進めていかねばなりません。取り組みのマンネリ化防止に努めるとともに、今ある弱点を徹底的に洗い出し、絶えず地道にひとつずつ潰していくことが重要です。

―― 2014年に大阪工場を、2015年には市原工場をご訪問いただきました。各工場の取り組みについて、どのような印象を持たれましたか。

小川
大阪、市原工場ともに、とても熱心に安全活動に取り組んでいると感じました。これまで培ってきた安全文化は工場により違いますが、抜本的安全対策とうまく組み合わせながら、皆さん真摯に努力しておられました。
淡輪
私も各工場を回る中で、社員の安全に対する姿勢が大きく変わってきたことを実感しています。ちょうど2年前、安全工学会の伊藤元会長と対談をした際に、「価値は現場で生まれ、事故も現場で起こる」とのご指摘をいただきました。現場を深く理解することがいかに大切であるかを、改めて教えていただきました。今後も生産拠点を訪れ、社員が明るく元気に前向きに仕事へ取り組む姿を自分の目で確かめていきます。
小川
他社における安全活動を拝見していても、トップの方の思いを全社員へ浸透させるべく、様々な取り組みが進められています。現場で働く皆さんの意欲や安全に対する感性を高めることは、会社全体の安全レベルを維持・向上させていくための基盤となります。一人ひとりが安全のためにできることを考え、自ら実行できるような仕組みや組織づくりを続けていただきたいと思います。

新たなステージで地道に安全活動を継続していく

―― このたび岩国大竹工場で取り組んできた安全再構築プロジェクトを昨年度で完遂させ、次の安全活動に繋げていくべきとの結論に至り、関係官庁の皆様や事故調査委員会の先生方にその旨をご報告、ご了解を得ました。これまでの岩国大竹工場の変化について、どのように感じていらっしゃいますか。

小川
当初、岩国大竹工場の皆さんには少なからず戸惑いがあったのではないかと思います。それまでも一生懸命に安全活動を推進してきた中で、あのような事故が起こってしまった。そこで「安全活動を一から見直しましょう」と言われても、すぐには受け入れられなかった部分もあったでしょう。しかし、全社一丸となって抜本的安全対策を進め、岩国大竹工場の皆さんも前を向いて懸命に再構築に励んでこられました。5年間の努力の軌跡を最後の報告会でしっかりと感じることができ、安心しました。安全は平均的な評価でなく、底上げが大切だと思います。そういう視点での効果の確認も重要です。
淡輪
私もまさに同感です。岩国大竹工場の社員をはじめ、当社社員が受けた衝撃の大きさは計り知れないものがありますが、反省とともに問題の分析を進める中で様々な気付きを得て、地に足が着いた活動になってきていると感じます。ただし、先ほど先生がおっしゃったように、継続的な取り組みというのは、“マンネリ化”や“やらされ感”をいかになくしていくかが難しいところでもあります。日々変わり続ける状況に柔軟に対応しながらも、レゾルシン事故で学んだ教訓を伝え続け、安全意識の向上と安全活動の発展に尽力していきたいと思います。

変わりゆく時代の中でもゆるぎない安全を確保するために

―― 昨年11月には「2025長期経営計画」が公表されました。今後の安全活動についてはどのようにお考えですか?

淡輪
2012年のレゾルシン事故により、業績を含め会社として非常に厳しい状況が続きましたが、2014年より中期経営計画を推し進める中で、徐々に回復の兆しが見えてきました。また、大きな事故やトラブルもなく過ごせてきたのは現場社員の努力のお陰です。この14中計が終わりを迎え、我々がこれから向かうべき方向性を社内外に発信すべく、新たに「2025長期経営計画」を発表いたしました。三井化学グループの未来の鍵を握るのは、社員の前向きなチャレンジ精神です。グローバル企業への加速を筆頭に、2025年に我々を取り巻く環境は今と大きく変わっていることでしょう。長期経営計画には、安全面についても新たな発想を取り入れたり、仕事の取り組み方を工夫したりと、社員一人ひとりに意欲的に挑戦を続けてほしいという思いを込めています。
小川
日本国内の事業所でも社員の多様化が進んでいますが、グローバルで見ても、様々な国籍や異なる文化を持つ社員が同じ環境の中で安全活動をするには、同じやり方では難しいことでしょう。日々の情報共有を徹底し、全員の安全意識を高めながらPDCAをしっかりと回せる体制を整えていかないといけないと思っております。
淡輪
そうですね。グローバルでは画一的な形での安全の展開は難しいですし、現地の社員でないとわからないところも大きな要素です。過去に、海外でトラブルが多発したとき、本社から安全のエキスパートを2年ほど派遣し安全指導をしてもらいましたが、良い成果が出ました。このような取り組みも今後はますます必要になってくると思います。
小川
人材育成の話がでましたが、私も長く学校教育に携わる身として、現場での「対話」を通じた教育が重要であると考えています。ただ一方的に講義を聞いているだけでは、物事の本質を理解するのは難しいものです。互いに意見を交わし、知識を広げ、思考を深めていく。そうした対話型の人材育成を進めていくことで、単なる技術の習得のみでなく、人間的な成長も望むことができるでしょう。
淡輪
そのようにして育まれる自発的な姿勢こそ、現場の安全を維持・向上する上での大切な土台となるものですね。各工場の安全懇談では、課長クラスの社員が積極的に発言をするようになっており、現場でも「私が」と一人称で語る社員が増えているという報告を受けています。自分事として問題や課題を捉え、それについて考えたり、自ら行動する意欲的な人材が増えているというのは大変嬉しい変化です。現場の中心となる課長が、その下で働く係長や班長、そして現場の社員たちに良い影響を与え、互いが連携することで現場全体の大きな改善につながるのではないかと思っています。

―― グローバル化に加え、IoTやビッグデータの活用などテクノロジーの高度化も進んでいます。企業として、今後どのようなことに取り組んでいくべきだとお考えでしょうか。

小川
企業活動においてデータを収集・加工し活用する重要性は高まっていますが、より高度なシステム開発が進まなければ、現状では最適な仕組みを構築するのは難しいと考えています。自社の技術に加え、他の企業と協力しながら時代の変化に対応していくことが求められているのではないでしょうか。
淡輪
おっしゃる通りですね。私が会長をしている石油化学工業協会では、各社が所有する安全に関するデータの開示・蓄積を進め、活用への取り組みを始めたところです。どのデータをどこまで開示するかという線引きはデリケートな問題で、データをどう活かすかとなると難易度も高まりますが、各社の共通点や傾向などを分析することで、新たな情報共有の形が生まれると期待しています。

一人ひとりが気を引き締め 安全意識を高く保つ

小川
安全活動というのは、常に意識をし、地道に続けてこそ意味があります。しかしながら人間は、ついつい楽なほうを選んでしまいがちです。大きな問題も起きず、日々の仕事に追われるうちに「これくらいでいいか」と、つい気を緩めてしまう。そうした一瞬の油断が、何よりも恐ろしいものなのです。特に、業績が好調だったり、成長への期待がかかっていたりする事業ほどリスクを見落としがちになり、目の届かないところに意外な落とし穴が潜んでいることがあります。日々こまめな情報共有を欠かさず、安全への意識を高く保ち、着実に取り組みを進めていただきたいと思います。
淡輪
事故発生から早くも5年が経とうとしています。改めて、社長である私自身が当時の記憶をしっかりと心に刻み付け、社員に伝えていかねばならないと身にしみて感じています。「安全はすべてに優先する」という経営方針、そして安全文化の確立は、三井化学グループが存続してくための大前提であることにこれからも変わりはありません。社員に向けた言葉の一つひとつにしっかりと魂を込め、力強く発信し続けていきます。5年という節目を迎えた今、我々の安全活動は新たなステージへと突入しますが、決して記憶を風化させることなく、地道に安全活動を続けていきます。

【司会進行】
生産・技術本部 安全・環境技術部長
出口 敦

アンケートにご協力ください

★印をあなたの評価と合致するところでクリックしてください

アンケートの回答には Internet Explorer 8 以降が必要です。