特集 : ダイバーシティ対談 病気になっても、自分も仕事もあきらめない 特集 : ダイバーシティ対談 病気になっても、自分も仕事もあきらめない
SNPO法人5years 代表 大久保 淳一氏 × 常務執行役員 安藤 嘉規 SNPO法人5years 代表 大久保 淳一氏 × 常務執行役員 安藤 嘉規

左:NPO法人5years 代表 大久保 淳一 氏 /
右:常務執行役員 安藤 嘉規

大久保 淳一 氏

1964年長野県生まれ。名古屋大学・大学院卒業後、1991年三菱石油入社。

1999年 シカゴ大学・経営大学院MBA取得。
1999~2014年 米国投資銀行ゴールドマン・サックスに在籍。

2007年、42歳の時に精巣がんと間質性肺炎を発病。5年生存率20%と言われるなか、翌年に復職。その後、長期リハビリを経て2013年にサロマ湖100kmウルトラマラソンに復帰し完走を果たす。
現在、日本最大級のがん患者支援団体NPO法人5yearsを運営する傍ら、執筆・講演を行っている。

2018年9月、人事部主催のダイバーシティ講演会で、「病気になってもあきらめない」をテーマにNPO法人5years(ファイブイヤーズ)の大久保代表にご講演いただきました。今回、大久保氏を再度お招きし、当社常務執行役員の安藤嘉規と対談していただきました。大久保氏ががん患者として挑戦した「サハラ砂漠250㎞マラソン」や、企業における病気治療と就労の両立についてお話を伺いました。

三井化学は社員と会社の共同CSR「ちびっとワンコイン」でNPO法人5yearsに寄付を行っています。また、大久保氏の「サハラ砂漠250kmマラソン」への挑戦をスポンサーとして応援いたしました。

「私というがん患者」の挑戦。病気をしても、人生は終わりではない。

安藤

サハラ砂漠250㎞マラソン、完走おめでとうございます。昨年来ていただいた当社での講演会の際に、サハラマラソンに挑戦するという決意を伺い、実はすごく心配していたので、無事に完走されたことをお聞きした時には本当にほっとしました。過去に最終ステージの精巣がんと間質性肺炎という重い病気から復帰された大久保さんですが、強靭な肉体を持つ人でも完走するのが難しい過酷なレースに挑戦を決めたきっかけはなんだったのでしょうか。

大久保

2007年に医師から「あなたの病気は精巣がんで、最終ステージまで進行しています。がんが腹部、肺、首にまで転移しています。」と告げられました。5年生存率は20%。がん発症前は本気でマラソンに取り組んでいたのですが、マラソン復帰なんてあり得ない、果たして生きられるのか・・・そんな状況でした。今回のサハラ砂漠マラソン挑戦は、20年越しの悲願で、「私というがん患者」の挑戦でした。

安藤

今回の挑戦は、過去の大久保さんと同じように、現在病気で苦しんでいる方々にとって大きな励みになったのではないかと思います。

大久保

大会の公式HPでも感動的なストーリーとして私を紹介する英文記事が掲載されました。帰国してからは多くのがん患者とそのご家族から「勇気づけられた」「励まされた」と連絡を頂きました。

安藤

大久保さんと私のお付き合いも長くなりましたね。1993年に私が三井化学の原料調達担当、大久保さんは某メーカーの営業担当で初対面となり、頻繁にお会いしていましたね。その後、直接お会いすることは少なくなったのですが、毎年、年賀状のやり取りで公私ともに順風満帆な様子を感じていました。ところがある年、2008年だったと思いますが、年賀状の書き出しが「安藤さん、俺、がんになった。」とあって。「絶対治してみせるから」という言葉を見て、とても驚いたことをはっきりと覚えています。

大久保

私は健康に自信がありました。タバコは吸わないし、食事に好き嫌いはない。週5日もジョギングをしていて、毎年受ける人間ドックでは何も問題なかったのです。だから、まさか自分ががんになるとは思いもしませんでした。がんが見つかる1か月前にフルマラソンを完走していたほどです。がんになって、一番気がかりだったのはお金と雇用です。当時、働き盛りの42歳で、2人の子供たちは、8歳と6歳。家族の将来に不安を感じました。
しかし、がんは今や不治の病ではなく、きちんと治療すれば社会復帰できるケースは多いのです。仕事と治療の両立も可能な時代です。ただし、そのためには企業のサポートがとても大切です。一方、十分なサポートができている企業はまだまだ少ない印象です。そんな中、三井化学は色々な取り組みをされていますね。

制度が充実すると、組織のダイバーシティが進む

安藤

治療を続けながら働く社員をサポートする制度としては「特別休暇制度」があります。失効年休を特定の目的で使える制度です。この制度はこれまで子育てや介護、病気、ケガなどの事由で連続3日以上勤務できない場合に使用できました。「連続3日以上勤務できない場合」というのは手術や入院等を想定していたからです。しかし最近ではがんの治療のように長期の入院を伴わず毎月通院するような人が増えてきましたので、今年度から半日単位で使えるように変更しました。また今回の制度改定ではがんなどの病気治療だけでなく、不妊治療にも適用できるようにしました。

大久保

それは社員のためにも会社のためにも素晴らしいですね。仕事を辞めずに治療が続けられますから。さらにがん経験者から言わせていただくと、早期に会社に復帰できるような仕組みがあると非常に助かります。多くの企業の制度は週5日しっかり働けるようになってからの復帰を求めていますが、終日勤務できる万全の状態まで回復しなくてはならないというプレッシャーはきついです。なかなか復帰に踏み切れなくなります。つまり、制度が社員の「復帰したい」という思いを阻みます。プレッシャーがなければ復帰を早めることができ、会社にも社員にもメリットがあると考えています。

安藤

制度が充実し、うまく活用されることで、社員のパフォーマンスの向上と組織の強化につながれば、社員と会社はWin-Winの関係が築けるのではと考えています。当社の場合、病気からの回復期に関しては「リハビリ試験出社制度」があります。この制度は病気欠勤や病気休職の状態にある社員の復帰を支援し、職場復帰が可能な状態にまで回復しているかどうかを判断するためのものです。半日程度の勤務から始めて、1ヵ月程度の期間をかけて、フルタイムで安定的に勤務できるよう支援していきます。
また、今年度から社員のワークライフバランスと生産性の向上を目的に「テレワーク制度」を導入しました。この制度は、病気治療との両立を目的に導入したものではありませんが、治療をしながら働く人や、回復期にある人にとって、朝夕のラッシュ電車や時間のかかる通勤は負担になりますので、仕事と治療の両立にも役立つ制度だと思います。
さらに今後新たに導入を検討している、病気治療を目的とした時短制度は回復期にある方の就労をサポートするものになると考えています。

大久保

企業が制度をしっかりと整えると、多様な事情を抱えた人が働けるようになり、結果として組織のダイバーシティが進みます。私は、ダイバーシティを進めることは社員にとって利点があるばかりでなく、企業が強い組織を作ることにつながると考えています。ダイバーシティを徹底すると、結果として優秀な人が企業に集まり、定着する。優秀な人の活躍によって、今まで以上に会社がよくなる、そういう考え方にたって、ダイバーシティを支援していくことは大切だと思います。

人のつながりで人を支える仕組みも必要 ~メンタルサポート~

安藤

大久保さんが代表を務めるNPO法人5yearsもがんと闘う人をサポートする仕組みを作っていらっしゃいますね。

大久保

がんの治療を受けながら働く人には、企業が用意する制度以外にメンタルのサポートも重要だと考えています。NPO法人5yearsは、がん経験者同士をつなぐ役割を担っています。がんに罹ると、先にがんを経験した人から話を聞きたいものです。しかし、がんと言っても50種類以上あります。もし、がんの種類、進行ステージ、年代、性別、受けている治療、さらに職業まで同じ経験者が見つかれば、その人と繋がりたいですし、相談にのって欲しくなります。自分と同じ境遇を経験した人と出会える仕組みを作るために、多くの方に5yearsに登録していただきたいです。私は、5yearsを「社会インフラ」にするつもりで取り組んでいます。これまで会うことのできなかった同じがん経験者と会える、そういう仕組みを作りたいのです。

安藤

確かに制度を作るだけでなく、人のつながりで人を支えるという仕組みも大事ですね。当社は事業所ごとに産業医を社員として雇用し、配置しています。そのため、産業医と社員の距離が近く、「人が人を支える仕組み」として機能しています。病気に罹った社員と産業医、職場の上司や人事部門が緊密な関係を持ちながら、場合によっては制度を柔軟に運用することも含め、治療中の社員のサポートをしています。復帰までのプロセスを丁寧に進めていることは、病気に罹った社員の大きな助けになっていると思います。

大久保

自分の仕事を理解している産業医がサポートしてくれるのは心強いと思います。また、同じ職場の人にとっても、がん経験者の同僚をサポートするためのアドバイスがもらえるのはいいですね。

仕事も自分もチャレンジし続ける

安藤

最後に、大久保さんの今後の抱負をお聞かせいただけますか。

大久保

まずランナーとしては2つあります。一つ目はフルマラソンで自己ベストを更新すること。既に、ベストの時から15年も歳を取っているし、肺の3分の1が動いていないから、絶対無理だと言われるのですが、挑戦したいです。もうひとつは、4大砂漠マラソン制覇。サハラ砂漠以外にもゴビ砂漠、アタカマ砂漠、南極とすごい大会があります。健康な人でもそこまでやった人は少ないですから、チャレンジしてみたいですね。
仕事では社会起業家として成功したいと思っています。私は元々ビジネスマンですから、寄付金にだけ頼るNPO法人にはしたくないのです。活動から事業収益を得て、その事業収益で社会活動を続けていく社会事業を作りたいのです。ビジネスとして成り立たないものには、持続性も発展性もないですから。これは私の天命だと思っています。

安藤

ビジネスで社会課題を解決することには当社も力をいれています。去年の秋ごろから淡輪社長が「強い会社でなければ生きていけない、いい会社でなければ生きていく資格がない」と発信しています。強い会社、すなわち収益性の高い、儲かっている会社であるだけではだめなんだ、と。いい会社、あらゆるステークホルダーに対してきちんと貢献できる会社になろう、という宣言であり、これがESGを推進する経営のひとつの在り方なのだろうと思っています。

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