特集 : サステナビリティ対談 時代の先を読み、あるべき姿に向かっていく 特集 : サステナビリティ対談 時代の先を読み、あるべき姿に向かっていく
SDGパートナーズ 代表取締役CEO 田瀬 和夫氏 × 代表取締役 社長執行役員CEO 淡輪 敏 SDGパートナーズ 代表取締役CEO 田瀬 和夫氏 × 代表取締役 社長執行役員CEO 淡輪 敏

左:代表取締役 社長執行役員CEO 淡輪 敏 /
右:SDGパートナーズ 代表取締役CEO 田瀬 和夫 氏

田瀬 和夫 氏

東京大学工学部原子力工学科卒、ニューヨーク大学法学院客員研究員を務める。

1992~2005年 外務省に在籍。
2005~2014年 国連に在籍。国連事務局・人間の安全保障ユニット課長、国連広報センター長を歴任。
2014年 デロイトトーマツコンサルティング合同会社 執行役員に就任。
2017年 SDGパートナーズ有限会社設立。

トップのリーダーシップが不可欠

── 当社はこれまでの3軸経営を深化させ、ESGを中核に据えた経営を行うべく取り組んでいます。サステナビリティに関する知見が深い田瀬様から見て、企業がESGを推進するにあたって重要な要素は何だとお考えでしょうか。

田瀬

経営トップがESG推進の意義をきちんと理解、腹落ちをして、リーダーシップをとることだと思います。そうでなければ社員はついてこない。三井化学の場合は、社長が本質を理解し、経営の判断をされていると感じます。

淡輪

私もトップの腹落ちが大前提というご意見に同意します。その上で重要なのは、トップの思いをいかに現場の社員に伝えるかだと思っています。当社は2018年にESG推進室を設立しましたが、その目的の一つは社員の理解、腹落ちを進めることです。そしてもう一つは、三井化学がESGに対して本気であるという意志を対外的に宣言したかったということです。ESGの推進に向けて、いい意味でプレッシャーにしていきたいですね。

田瀬

社員の腹落ちという点で、何か意識されていることはありますか。

淡輪

社員には「強く、いい会社」という表現を使ってESGの意義を説明しています。企業にとって、数字に表れる財務的な「強さ」は必須ですが、それと同時に、数字に表しにくい非財務的な価値を持ついわゆる「いい会社」でなければ存続する意味がないのではないかと。

田瀬

私は、財務/非財務をアスリートの筋力と内臓力に例えるのですが、結果を出すためには、筋力や技が必要だけれども内臓が良くなければ短命で終わってしまう。ビジネスにおいて財務/非財務のバランスが悪い企業に、持続的な成長は見込めないと思います。

長期視点であるべき姿を構想し、そこに向かって進んでいく

── 当社グループは長期経営計画を打ち出しています。長期的視点の重要性についてご意見をいただけますか。

田瀬

最近、企業の若手の役員クラスの方々と意見交換すると、長期視点の重要性、いっそ中期の経営計画をやめてしまえばいいという意見が頻繁に出ます。三井化学はすでに、中期計画から長期計画に切り替えていらっしゃいます。とても先進的だと思いますが、どのような経緯だったのでしょうか。

淡輪

これは、私自身の思いが強かったのですが、これだけ環境変化の激しい時代に予定調和的な計画は意味がないと考えていました。たとえファジーなものになっても、あるべき姿を構想し、そこに向かって進んでいく方が良いのではないかと思い、長期計画で行こうと決めました。もし環境変化が起こったら、その都度ローリングして織り込んでいく方が現実に即しているという考え方です。

田瀬

大きな意思決定だったと思いますが、社内から不安の声はありませんでしたか。

淡輪

中期計画に基づき予算に落としていくリジッドな経営システムに慣れていた社員には、不安があったと思います。ただ、「中期計画で決めたから」という予定調和ではすまされない。社員の発想の転換を促す意味でも長期目標にシフトしたほうがよいと判断しました。

田瀬

少し遠くの目指す先を見ながら舵を切っていくというのが非常に大切だと思います。これと同じことが社会課題対応にも当てはまります。例えば、貧困にあえぎお腹の空いた子どもに食料を与えれば、その場の空腹を満たすことはできますが、根本的な解決にはならない。やはり、貧困そのものへの取り組みが不可欠です。企業においても、この取り組みは本当に目指す姿につながっているのかを意識していただきたい。帰納法的に短期・中期の視点を持つことと、演繹法的に長期の視点を持つことを組み合わせることが重要です。

時代の先を読み、それに合わせて経営が変わらなければならない

── 田瀬様は、ESG推進において「世の中の動きを経営に反映させるプロセスが不可欠」ともおっしゃっていました。

田瀬

ESG対応というのは、ある意味時代の先読みをする機能です。経営が知るべきことを必要なタイミングで経営陣の議論の場に挙げられることが重要です。ESG推進室が社長直下にあるのは、将来を踏まえた重要なテーマを経営に反映させる仕組みとして意図されていると推察します。

淡輪

おっしゃる通り、ESG推進室とは頻繁にディスカッションをしています。その上で、ESG推進委員会や取締役会で議論しています。取締役会では直近の事業や投資といった個別議題が多かったのですが、最近はESG視点でもっと突っ込んだ議論をしようという雰囲気が強くなっています。社会課題は、その時々の潮流があり、課題の大きさやインパクトも様々です。20~30年後にこれらの課題はどう動いているか、という視点で見たときに今打つ手は何か、という演繹的な議論をやっておかなければいけない。その議論の中で打ち手や経営のプライオリティが変わってくると思います。

田瀬

時代の先を読み、それに合わせて経営が変わっていくこと。これが、サステナビリティマネジメントですね。例えば、10年後には、人が自動運転で常時移動しているという状況はもはや夢物語ではありません。そうなれば、距離の概念が意味を失い、土地の価値や都市生活ががらりと変わる。そういう世界の動きに対して常にアンテナを張り、その流れを敏感に読み解くということが、経営にとってとても重要なことだと思います。10年後の未来を見据えて、化学業界の現状をどのように考えていますか。

淡輪

化学の可能性は広がっていると感じています。イノベーションが起こるときには化学の果たすべき役割が必ずあります。化学業界、三井化学にとって大きな課題はやはり、気候変動とプラスチック問題です。10年後にはさらに深刻化することが予想されるので、どういうシナリオを描き、対応策を打っていけるか、大きな構想を描く力が要求されていると感じています。

田瀬

プラスチック問題を考えるとき一般消費者が忘れがちなのがライフサイクルアセスメントの視点です。ごみが出るからプラスチックを減らすべきだと言うだけでは本質的ではないと思います。

淡輪

プラスチック製品は、使用後、適正に処理・廃棄されるのが理想です。不適切な管理の結果、環境負荷につながっているという現状があります。製品のライフサイクルの各ステージで、科学的根拠に基づいて環境負荷を確認し、総合的に判断することが重要です。もちろんプラスチックを製造する企業の責任としてできることを考え、取り組むのは当たり前のことです。それと同時に、サプライチェーン全体、ゴミの回収処理にあたっている地方自治体、行政など幅広い関係者が協力して解決すべき問題と考えています。短絡的な「べき論」で片付く問題ではないことを認識しなければいけません。私自身もそれを意識して、個社、業界それぞれの立場で発言をしていこうと思っています。

田瀬

是非、プラスチックに通暁する三井化学のような企業がリーダーシップをとり、本質的な議論をしていただきたいと思います。また、一般消費者にはこの問題の全体像が非常に分かりにくいと思います。分かりやすく情報発信を行うとともに、課題解決に資する優れた製品を開発していくことを期待します。

多様な人材が活躍できる仕組みを整えていく

── 環境以外で田瀬様が重視している課題はありますか。

田瀬

日本の企業で最も遅れているのは、ESGのSの中でも、SDGsでいうところのジェンダーの平等、女性のエンパワーメントを含めた多様性への取り組みだと感じていますが、三井化学の現状はどうでしょうか。

淡輪

化学企業の工場現場には女性が少ないというのが一般的でしたが、当社では3交替シフトにもなるべく女性に入ってもらっています。そのためには設備や仕組みなどの改善が必要なこともあり、現場の発想そのものが変わりつつあります。また、マネジメント層では、今年から社外取締役3人のうち2人が女性となりました。そもそも女性社員が少ないことも課題なので、地道に女性の採用比率を上げていければ管理職や要職に就く女性を増やしていくことができる。良いサイクルが生まれていくと考えています。

田瀬

広くダイバーシティの観点ではいかがでしょうか。

淡輪

海外で採用したスタッフの要職への登用を積極的に行っています。優秀な人材の積極的な活用を狙い、今年グローバル人材部を創設しました。

田瀬

柔軟な思考ができる人材を次世代経営層として育てていくことも非常に重要なテーマだと思います。

淡輪

当社では、キータレントマネジメントシステムを設けています。サクセションプランをつくり、経営幹部に至るまでステップワイズに役割を与え、育成する仕組みをとっています。トップ人事については、人事諮問委員会の形をとっています。社外取締役から意見を聞き、その上で説明責任を果たすこと、つまり、ブラックボックスにしないという責任は、非常に重いと認識しています。

利益の先行指標「社会的インパクト」も示してほしい

── 当社の独自の取り組みであるBlue Value® とRose Value® については、どのように評価されていますか。

田瀬

三井化学は、業界のリーダーとして、社会から様々な要請があると思います。この要請に対する答えとして、Blue Value® とRose Value® があるのではないでしょうか。

淡輪

Blue Value® とRose Value® は、数字に表しにくい社会課題解決への貢献を、それぞれ環境貢献価値、QOL向上貢献価値として可視化したものです。ステークホルダーの皆様に評価をいただけるような客観性や効果が見込めるようになり、2015年から開示を始めました。

田瀬

単に社会に貢献する製品を売っているということだけではなくて、財務的にも成立されているように思いますが、いかがですか。

淡輪

こんな製品がありますというだけでは意味がありませんので、長期経営計画のKPIとして売上高比率の拡大を宣言しました。Blue Value® 、Rose Value® 製品の拡大によって、持続的な経済成長も実現するものと考えています。ですから、投融資の際にも、環境貢献価値があるのか、QOL向上に資するものか、といった視点を入れて評価することにしました。

田瀬

最近、投資家の間では、製品やサービスがどれだけの社会的インパクトをつくり出したか、つまり、社会が良い方向に変わったか、あるいは負のインパクトを抑え込んだか、ということに関心が高まっています。社会的インパクトは利益の先行指標である、社会への貢献が中長期的には利益に還元されるという考え方です。今後、社会的インパクトまで含めて示していかれると、素晴らしいと思います。

大きな社会的責任を果たし、同時に、収益を生み出す企業へ

── 最後に当社グループへの期待をお願いいたします。

田瀬

三井化学はこれまでも、大きな社会的責任を果たしてきたと評価しています。これから世の中が変わっても、そのコアな社会的責任をこれまで同様に果たし、それによって利益を上げていただきたい。社会への貢献と自身の成長を両立する企業であり続けることを期待しています。

淡輪

田瀬さんは、様々なアプローチで世界中の社会課題に触れる活動をされています。三井化学グループの社会課題への対応や、ESGの取り組みがブレていないか、これからも厳しくも温かい目でご意見をいただきたいと思います。

司会進行:理事 ESG推進室長 右田 健

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