Mitsui Chemicals

世界が認める高画質をあなたの手元に スマホカメラの超小型レンズ用樹脂「アペル<sup>®</sup>」

「素敵な景色やおいしい料理に出合ったら、写真に撮ってSNSにアップする」。カメラ付きスマホが登場するまでは考えられないことでした。スマホカメラは、従来のカメラよりはるかに小さいのに、高画質の写真が撮れます。それに大きく貢献しているのは、樹脂(プラスチック)でできた超小型の組み合わせレンズです。なかでも、三井化学の「アペル®」は高性能な凸レンズの材料として、世界で半分以上のシェアを占めています。

写真の“きれい”を決める「カメラレンズ」

カメラ付きスマホの登場によって、“写真を撮る”という行為はずっと身近になりました。撮った写真は簡単にネットに上げられるので、日常の情報共有のスピードは格段に速くなり、私たちの暮らしもずいぶん変わりました。

スマホに搭載されているカメラは小さいですが、その中には、光を集めて像をつくる「レンズ」、像を記録する「センサー」などが納められており、基本的な構造は従来のカメラと変わりません。

このうち、像をつくるレンズは、写真の画質を決める重要な部品で凸レンズと凹レンズの組み合わせで構成されています。普通のカメラには、口径の大きなガラス製のレンズが使われてきましたが、スマホのカメラレンズは、小さくて軽くなければなりません。

スマホカメラの構造

ガラスで小さなレンズをつくるには削り出しや研磨の手間がかかるため、生産性がよくない上にコストがかさみます。そこで、成形が容易なプラスチックの中からカメラレンズに合うものが選び出され、使われるようになりました。

やがて、スマホの進化に伴って、高画質を実現できる性能の高いレンズが求められるようになりました。それに応える鍵となったのが、三井化学の優れた光学特性をもつプラスチック「アペル®」です。最も小さいものでは直径4 mm、厚さ0.2 mmの凸レンズがつくられています。

アペル®のペレットがスマホカメラのレンズになるまで


ペレットを加熱融解し、金型に流し込んで成形する。


成形物の先端の薄い円盤状のものがレンズ。これを切り離し、ほかのレンズと組み合わせてレンズユニットとし、スマホカメラに搭載する。


レンズユニットのL1~L5の5枚のレンズのうちL1とL4、L5の3枚の凸レンズがアペル®でできている。

アペル®がスマホカメラのレンズ材料に選ばれる理由

たくさんあるプラスチック材料の中で、凸レンズの材料として、アペル®が大きなシェアを誇っているのは、なぜでしょうか?

カメラにおけるレンズの役割は、光を取り込み屈折させて焦点を結び、写真となる像をつくることです。つまりカメラを小さくするには、口径が小さくても十分な光を取り込むことができて、薄くても近いところに焦点を結ぶことができる透明で屈折率の高いレンズが必要です。アペル®を使えば、求められるレンズをつくることができるのです。

さらに、アペル®でつくったレンズには複屈折が小さいという性質もあります。複屈折とは、レンズの光学的な歪みにより光の進路がいくつにも分かれる現象で、結果としてレンズを通った像はにじんでしまいます。複屈折が小さいと、像がにじむことなく、きれいな写真を撮ることができます。

レンズ材料の違いによる写真の画質の違い

アペル®製凸レンズ2枚を使ったレンズユニットと、比較材の凸レンズ2枚を使ったレンズユニット(凹レンズはどちらも同じ)をつくり、パターンや文字を撮影。アペル®(左)のほうが鮮明だとわかる。薄型レンズでは、複屈折の影響が大きく現れるためだと考えられる。

アペル®のこのような優れた性質は、実は材料の分子の構造に由来しています。

また、アペル®には、吸水性が低いという特徴もあるため、温度や湿度といった環境の変化に対してレンズが安定で、写真の画質に影響しにくいこともわかっています。

アペル®はそもそも1980年代の初めに光ディスクの基材として開発されました。しかし、安価な競合品に押されて結局開発は中止に。その後、細々と生産を続けていましたが、ついに事業をたたむかどうかの瀬戸際に立たされます。

そんな状況を打破するきっかけとなったのは、DVD用ピックアップレンズ(情報読み出し装置用レンズ)の材料にアペル®が採用されたことでした。ガラスレンズのプラスチック化を模索していたメーカーがアペル®の光学的性能の高さに注目したのです。

これに力を得た研究者たちは、アペル®がカメラレンズの材料としても適していることを証明し、高画質な写真撮影が可能なことを学会や論文で次々と発表していきました。こうしてスマホカメラレンズ用材料としての道が開けていったのです。アペル®は苦労の末に花開いた、三井化学にとって記憶に残る材料の一つなのです。

コラム 「画像がにじまない秘密は、分子構造にある」

アペル®でつくったレンズには、複屈折が小さいという性質があります。複屈折とは、レンズの光学的な歪みによって、光の進路がいくつにも分かれる性質のことで、複屈折の小さいレンズを使うと、きれいな写真を撮ることができます。アペル®製のレンズの複屈折が小さいのはなぜなのでしょうか。

写真は、アペル®(左)と方解石(右)です。背面に書かれた十字が方解石を通してみると二重に見えます。これが複屈折です。一方、アペル®の複屈折は非常に小さいことがわかります。

この性質には、分子の構造が関係しています。アペル®は、エチレンと環状オレフィンが付加重合した環状オレフィンコポリマーです。エチレンと環状オレフィンの比率(xとyの数)や、環状オレフィンのR1、R2をどのような構造にするかで、できるプラスチックの性質は変わってきます。

エチレンと環状オレフィンには、それぞれ分子を横方向に引っ張る力と、縦方向に引っ張る力があります。①エチレンばかりがつながった分子では横方向に引っ張る力が原因で正の複屈折が起こります。一方、②環状オレフィンがつながった分子では縦方向に引っ張る力のために負の複屈折が生じます。③アペル®は、エチレンと環状オレフィンのバランスがよく構成されているので引っ張る力が互いに打ち消されて、複屈折はほとんど起こりません。