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人権の尊重

取り組み

三井化学グループでは「人権尊重」を当社グループのマテリアリティにおける「事業継続の前提となる課題」の一つとし、人権尊重に向けた取り組みを進めています。

人権デュー・ディリジェンス

三井化学グループは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則した人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築し、当社グループの企業活動がライツホルダーに与える人権への負の影響を、防止および軽減することを目指しています。

人権デュー・ディリジェンスの取り組み

人権デュー・ディリジェンスの取り組み

人権への負の影響の特定・分析・調査

三井化学グループの事業拠点がある国々では、地域の政治、経済、社会の状況を背景とした、人権に関する様々な課題があります。当社グループは、各地域における人権課題から、当社グループとして考慮すべき課題を把握するために、人権リスクアセスメントを実施しています。2021年度からは社外有識者の協力を得ながら、事業の状況を確認、整理したほか、従来の人権課題の視点に加えて、気候変動や廃棄物などによる人権への影響も新たな調査すべき視点として追加しました。これらの調査は机上にて行い、その結果を基に、当社グループの事業拠点において考慮すべき人権課題と、そのライツホルダーを特定しました。人権を取り巻く状況は常に変化していることから、必要に応じて、人権課題の見直しを継続的に実施していきます。

人権リスクアセスメントにおいて参考とした調査資料の例
米国国務省のCountry Reports on Human Rights Practices、Trafficking in Persons Reportなどの情報、Human Rights Watch World Report、Transparency Corruption Perceptions Indexといった人権に関わるNGO等の調査資料 など
人権リスクアセスメントにおいて評価した人権指標の例
児童労働、適正賃金、労働時間、職場での差別、教育、強制労働、結社の自由と団体交渉、表現の自由、先住民族の権利、人身取引、土地および移住の権利、移民労働者の権利、現代奴隷、労働安全衛生、パンデミック感受性、貧困、プライバシーの権利、セクシャルマイノリティーの権利、女性と少女の権利、若年労働者の権利、気候変動への影響、森林破壊、水資源への影響、大気汚染・海洋汚染、廃棄物・有害物質の排出、天然資源の利用、生態系・生物多様性への影響、製品の安全、責任あるマーケティング、消費者の救済プロセス、責任ある納税、腐敗防止、政府との関係 など
当社グループ事業における潜在的人権リスクの例当社グループ事業により影響を受けるライツホルダーの例留意すべき人権指標の例
労働者に係る人権リスクサプライヤー労働者、ビジネスパートナー労働者、自社グループ労働者 など適正賃金、労働時間、職場での差別、強制労働、結社の自由と団体交渉権、移民労働者の権利、現代奴隷、労働安全衛生、パンデミック感受性、プライバシーの権利、セクシャルマイノリティーの権利 など

2022年度は、本机上調査で特定した「労働者に係る人権リスク」の実態を確認すべく、先ずは、当社事業の基盤である製造現場で働く労働者に焦点を当て、特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会(以下、CRT日本委員会)の協力を得て以下の通り人権インパクトアセスメントを行いました。

※経済人コー円卓会議日本委員会:

CRT日本委員会。ビジネスを通じて社会をより自由かつ公正で透明なものとすることを目的とした、ビジネスリーダーのグローバルネットワーク。人権尊重に向けた企業の取り組みを支援する。

三井化学人権インパクトアセスメントの実施概要(2022年度)

背景

当社は、2021年にCRT日本委員会と共同で、三井化学グループにおける潜在的人権リスクの特定・評価(人権リスクアセスメント)を実施した。その結果のひとつとして、当社グループの工場で働く間接雇用の労働者(派遣および請負労働者)が脆弱な立場に置かれている可能性があり、特に注意を払う必要があることを確認した。

これに、外国籍労働者の労働環境が日本における顕著な人権課題のひとつとして挙げられていることを考え併せ、外国籍労働者の雇用数の多い地域にある当社国内工場を調査の対象とし、2022年に間接雇用の労働者に関する実態確認を試験的に行うこととした。

目的

当社がライツホルダーに与える、顕在的な人権への負の影響を特定・評価(人権インパクトアセスメント)し、その防止および軽減を図ること。

実施手順

  1. インタビュー対象者の選定
    各職場のシフト勤務状況に配慮のうえ、派遣および請負労働者を選定し、グルーピングを行った。
  2. 事前アンケートの実施
    インタビュー対象者に対して、労働環境に関する紙面でのアンケート調査を実施した。
  3. インタビューの実施
    以下の手順で実施した。
  1. 事前アンケートの回答および「尊厳ある移民のためのダッカ原則」等の国際規範を参照し、インタビュー項目を作成。
  2. 客観性および中立性確保のため、CRT日本委員会が第三者の立場でインタビューを実施。
  3. プライバシーの保護や発言によって不利益を被ることがないよう留意。
  4. 労働者インタビューの後、対象者の管理者(協力会社)に対して、マネジメントインタビューを実施。

※ダッカ原則:英国の人権とビジネス研究所(IHRB)が作成したもので、募集から雇用、契約の終了まで労働者をたどるロードマップの役割を果たす重要な原則として、ビジネス、政府、労働組合、市民社会から支持されている。「すべての労働者を平等に、かつ差別なく取扱う」、「すべての労働者を雇用に係る法律によって保護する」という2つの中核的な原則のもと、10の原則が定められている。

三井化学人権インパクトアセスメントの実施概要

実施結果

① 今回のインタビューを通じて把握できる限りにおいて、派遣および請負労働者への、顕在的な人権への負の影響は見受けられなかった。一方で、潜在的なものとして、注意すべき人権リスクを、以下のとおり特定することができた。

※人権リスク:企業の人権に対する潜在的な負の影響、ライツホルダーにとってのリスクのこと。(ビジネスと人権に関する指導原則17参照)

適正賃金

  • 労働環境が厳しい職場での割増手当の要請の声がある。

労働安全衛生

  • 特に請負労働者において、安全教育以外の教育については教育内容の浸透度が低い。 
  • 避難訓練は定期的に実施されているが、夜間の避難訓練は未実施である。

団体交渉権

  • 請負労働者・派遣労働者に対する団体交渉権についての配慮不足の不安がある。

救済へのアクセス 

  • 請負労働者・派遣労働者が利用できる実働する救済メカニズム(相談窓口)の整備が必要である。

その他

  • 特に請負労働者において、コミュニケーション不足と思われる場面が散見された。
    例:引継ぎ・負荷増
  • 請負労働者職場において、小集団活動の負担増による業務への支障、ストレスになるとの訴えがあった。
  • 残業時間や業務の減少により、生活賃金を維持できないと懸念する声が多い。

② 調査の結果、調査対象の工場における外国籍労働者の雇用人数は極めて少ないことを確認した。また、彼らの日本語能力は非常に高く、言語面における就労上の支障など、外国籍労働者特有の懸念される人権リスクは見受けられなかった。

以上

今回の人権インパクトアセスメントは限られた範囲・対象から得た結果ではあるものの、特定された注意すべき人権リスクは、当社グループ全体で認識すべき課題として受け止め、全社でその予防と是正に向け取り組みを進めていきます。具体的には、当社グループの人権方針のさらなる理解浸透施策の拡充や、人権をテーマとした協力会社とのコミュニケーション機会を設ける等、サプライチェーン全体で人権尊重の責任を果たしていくことを目指します。

なお、本インパクトアセスメントの実施結果についてはESG推進委員会へ報告しています。

苦情処理メカニズム(是正)

当社グループでは、人権デュー・ディリジェンスにおいて、ライツホルダーとの対話を直接重ねながら、ライツホルダーからの懸念や苦情を受け付ける体制の構築を目指しています。

内部通報制度

当社グループでは直接、当社のコンプライアンス担当部門である総務・法務部または社外の法律事務所に通報(報告・相談)できる制度として内部通報制度を設けています。当社グループの役員、社員のみならず、当社グループの役員、社員の家族および退職者ならびに工場協力会社やサプライヤーを含む取引先の方など、当社グループの企業活動に関係があるすべての方が利用できます。本制度を通じて通報された情報は、当社監査役に、即時または定期的に報告し、また、重要なものについては当社取締役に必要の都度、報告しています。なお、通報者が内部通報制度により通報したことを理由に、不利益な取り扱いを一切受けないことを、当社「内部通報管理規則」で明確に規定しており、規則への違反者には懲戒等の規定も定め厳重に運用しています。

ハラスメント相談員の設置

当社グループでは、各事業所にハラスメント相談員を複数設置し、発生した場合の公正な事実の把握、迅速な解決への対応を図っています。ハラスメント相談員は、男女それぞれの担当者がいます。対象は、社員、嘱託社員、パート・アルバイト、派遣社員等、当社において働いている方すべて、また、顧客、取引先の社員の方等を含みます。

人権に関するステークホルダー・エンゲージメント

三井化学グループの従業員

三井化学グループ行動指針三井化学グループ人権方針に基づき、各種研修を通じて、差別やハラスメント問題などに対する教育を行っています。また、「ビジネスと人権」の基本を分かりやすく学ぶために、一般財団法人アジア・太平洋人権情報センターと公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本による「ビジネスと人権eラーニング教材」(3年に1度受講必須)を2019年度に導入し、2020年度から2022年度までに、国内関係会社も含めて13,538名が受講しました。今後、グループ全体への展開も図っていきます。また、2022年度は、人権方針の改定にあたり、人権に対する当社役員の理解をより深めることを目的に、ビジネスと人権等を専門とする弁護士を講師として招き、「”ビジネスと人権”に関する国際的な潮流と日本企業に求められる対応」をテーマに勉強会を行いました。この講演内容を録画したビデオ教材は、当社グループの部門長等にも展開しました。

なお、当社グループでは、個人の尊厳を傷つけるようなハラスメント行為(セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなど)、あるいは、個人の尊厳や人格を傷つけるような差別行為を確認した場合は、その情状に応じ、けん責、出勤停止、懲戒休職、懲戒解雇とすることを就業規則に定めています。

サプライチェーン

当社グループは、サプライチェーン上で関わりのある、あらゆるステークホルダーの皆様の人権尊重を常に念頭におき、事業活動に取り組んでいます。例えば、取引先に対しては、三井化学グループ持続可能な調達ガイドラインに明記しているとおり、人権の尊重、公正な労働条件や労働環境、環境負荷の低減、法令および社会規範の遵守、サプライチェーンにおけるこれらへの配慮を重視することを求めています。取引の開始時、また更新時には、取引内容に応じて定期的に持続可能な調達 SAQ(Self Assessment Questionnaire:セルフ・アセスメント質問表)による取り組み状況の確認を行い、その回答結果に基づき、取引先へのフィードバックおよび改善支援を行っています。また、取引先の方々が利用できるように内部通報制度の範囲を拡大しています。

社外プログラムへの参加

その他、2022年度は、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの人権に関する分科会の共同幹事としての活動の他、UNDP主催の「ビジネスと人権アカデミー」のプログラムにも参加しました。